恋するキミの、愛しい秘めごと
首都高を走る車内。
結局、榊原さんがそれに触れることなく話題を変えたから、何となくお礼の理由を聞くことは出来ないままになってしまった。
それでも相変わらず面白い話をしてくれる榊原さんのおかげで、会話に困ることもなく。
「そういえば、この車って天井開くんですか?」
「あー、開くよー。後で開けてみる?」
「はい! ぜひっ!!」
「いいけど、冬は寒くて耳取れるかも」
それに耳が取れるのはちょっと困ると言ったら、ゲラゲラ笑われて、やっぱり彼はよく笑う人だと改めて思いながら一緒になってたくさん笑った。
少しだけ渋滞していたせいもあって、横浜に着いたのは家を出て1時間近く経った頃。
コインパーキングに車を入れた榊原さんと一緒に海辺にある遊園地に向かうと、休日だけあってたくさんの家族連れやカップルで溢れかえっていた。
「冬なのに、結構混んでるんですね」
すれ違う人達をキョロキョロと眺めながら歩く私を見る榊原さんは、すごく楽しそう。
「……どうしたんですか?」
「いや、恵比寿に住んでるのにキョロキョロっぷりが田舎の子みたい」
「え!? す、すみません」
だって仕事が忙しくて、こんな所でのんびり遊ぶ時間があまりなかったし。
何より、一緒に行く相手がいなかったから。
慌てる私の横を、赤い風船を持つ女の子がかけて行く。
それに一瞬見とれた私の髪を、海風が巻き上げて思わず身震いをしてしまった。
やっぱり冬の海辺は寒いな……。
肩を竦め、静かに息を吐き出すと、
「これ着けてて」
首元が温かい何かに包まれて、慌てて振り返った。
「可愛いけど、ちょっと寒そう」
そっと触れた首元には、柔らかいフワフワのマフラー。
さっきまで榊原さんが着けていたそれには、まだ彼の体温が残っていて……。
「でも、榊原さんが――」
「俺は雪国育ちだから大丈夫」
ポンポンと叩かれた背中に、胸が柔らかい音を立てた。