恋するキミの、愛しい秘めごと
話をしながらゆっくり歩き、半分冗談かと思っていたジェットコースターにも乗った。
「どうしてムダに水しぶきを……」
プールのように水が張られた場所を走るジェットコースターは、乗り物が水に触れてもいないくせに人為的に水しぶきを上げる。
こんな真冬の寒い日くらい、止めておけばいいのに……。
風向きのせいか、モロにしぶきを浴びた私がブツブツと文句を言っていると、榊原さんはそれを見てクスクス笑って、
「何回かこれ乗った事あったけど、あんなに水かぶってる人初めて見たかも」
伸ばした手で、私の髪についた水滴を払ってくれた。
「……ありがとうございます」
「いいえ」
その手の温かさにドキッとして思わず俯いてしまう。
だって……。
流石は王子系の榊原さんとだけあって、さっきから扱いが“女の子”なんだもん。
カンちゃんはあんなだし、会社の男の人とは距離を取るようにしているし。
最近すっかりご無沙汰していたその感覚に、ムダにときめいてしまって困る。
「……」
榊原さんって、会社でもこんな感じなのかな?
そうだとしたらモテるだろうなぁ。
あ、でも同い年くらいの人がないって言ってたからどうなんだろう――って、これは早くもヤキモチ?
いやいや、そうじゃなくて。
「南場さん?」
「は、はいっ!?」
邪な想像のせいでムダに大きな反応を返す私に、榊原さんは一瞬面食らったように目を瞬かせる。
「ご、こめんなさい。どうかしましたか?」
慌てて笑顔を浮かべる私に、榊原さんは大きな観覧車を指差して言ったんだ。
「だいぶ暗くなったし、そろそろ並ぼうか」
見ると観覧車の乗り場には既に長蛇の列が出来ていた。
「やっぱり休日は混むんですね」
二人一緒に列に並んで、何気ない会話を交わす。
それにしても……前のカップル!!
イチャイチャと体を絡ませ、これ見よがしにキスなんかしているもんだから、目のやり場に困るというか。
“親と一緒にテレビを観ていたら、ベッドシーンが始まってしまった”的な気まずさ。
これが彼氏だったら「若さって恐ろしいね」とかコソコソ言いながら笑えるんだけど……。
もう仕方がないと溜息を吐いて諦めて、手摺に寄りかかる。
――すると。
「南場さん、見過ぎね」
笑を噛み殺した榊原さんにそう言われ……。
「俺達もやってみる?」
スッと耳元に寄せられた唇でそう囁かれて、かかる吐息に慌てて耳を塞いだ。
「そんなに慌てなくても」
「普通、慌てます!!」
「耳、真っ赤」
「赤くもなります!!」
それに肩を震わせて笑った榊原さんを睨みつけると、「ごめんね」と王子スマイルを向けられて。
簡単に許してしまった事は、言うまでもない。
結局、待っていた約1時間もの間、前のカップルは終始イチャついていて、観覧車に乗る頃にはそれもすっかり見慣れてしまった。