贅沢なリング
贅沢なリング



「ごめんね、杏奈。彼氏に怒られなかった?」

駅前のカフェ。
向かいのソファーに座って珈琲を啜るかつての恋人が、私の顔を覗き込む。

「大丈夫よ。あの人は」

私も珈琲を啜り、微かだけれど完璧な笑顔を作る。

『あの人』
女がそう呼ぶ時、そこに親しみ以上の何かが隠れる事を私はちゃんと知っている。

「ならいいんだけど。ありがとね、例の件。助かった」

「ううん、こちらこそ。あの子達、喜んでたし」

趣味が高じてアクセサリー職人になった元彼の啓太。
今では小さな店舗まで構えている。

「啓太の和柄ペアリング、かわいいもんね」

結婚指輪が欲しいと言う後輩夫婦に、啓太のお店を紹介した私。
今日はそのお礼にと呼び出された。


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