贅沢なリング




「私も欲しいくらい」

「彼氏がアクセ全般ダメな人、だっけ?」

「そう」

「俺んとこも、彼女が美容師だから」

そう言う啓太の左手の薬指には、華奢なシルバーのリング。

情事の後、あの指が優しく髪を撫でるのが心地よかった事を思い出す。
そのくすぐったい記憶を、珈琲と一緒に飲み込んだ。

「で、これ、さ。杏奈に」

啓太がポケットから取り出したのは、白いリングケース。

「開けてみて」

言われるがままに、差し出されたそれを手に取って開けてみる。

そこに収まっていたのは――

「俺とペアなんだけど」

鈍く光る、シルバーのリング。

「はめてみて」

それをそっとつまむ。
何故か緊張している私の指先に、するり、と冷たい感触が走った。

「……」

驚くほど私の指にぴったりで、声が出ない。


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