欲しかったもの
「早かったね。今日残業……、っ!」

信じて疑わなかった訪問者は予期せぬ人物。反射的に閉めたドア。お見通しとばかりに力強い腕でそれをガードして、惑う私を壁際に追いやると後ろ手で鍵を掛けた。

「なんで逃げんの?」

先輩は、追い詰めた私の脚の間を膝先で割って体を密着させる。
変わらないブルガリ、ほのかに感じる煙草の匂い。

「帰ってください!」

――美緒。

やっとの思いで振り絞った私の声なんて聞こえなかったみたいに、先輩は耳元で囁く。くらりと、目の前が翳んだ。
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