欲しかったもの
「大学まで追いかけてきたくせに、おまえは一度も俺を見なかった。気付けば勝手にいなくなって、一体何がしたいんだよ?」

先輩がそれを言うの?
どんな思いで、気持ちを断ち切ったと思うの。

「私が人のものだから興味を持っただけでしょ。来るもの拒まずの先輩が自分から事を起こすなんて、ただの気紛れ」

さっきから鳴り続けている胸の早鐘とは裏腹に醒めた目をすれば、彼はクッ、と喉の奥を鳴らした。

「からかい半分で来たけど、今の美緒には通用しねーみたいだから――……」



‘本気で奪い返してやるよ’

先輩は一瞬切なげに目を細めると、私の腰を引き寄せた。

余裕のないその顔は、私がずっと欲しかったもの。
先輩が追いかけてくれるなら、私はこれからも、誰かのものでいる。
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