ショートコメディの世界
「和哉…あなたともっと早く出逢えていたなら……」
「今からだって遅くない!
美幸とは別れる。もう俺は、貴子無しでは生きていけないんだ!」
「でも、美幸は私の大切な友達……
その美幸を裏切る事なんて……」
「じゃあ俺はどうしたらいい!
本当に好きなお前を諦め、偽りの愛に縛られろって言うのか!
そんなの愛じゃない!
俺は貴子がいいんだ!」
「和哉……」
「貴子!」
………なんていう恋愛映画が上映されている最中の映画館で……
突如として鳴り響く、携帯電話の着メロ。
♪~♪♪♪~♪♪~♪♪♪~
「チッ」
「チッ」
「チッ」
「チッ」
観客席のあちらこちらで、舌打ちが聴こえる。
『映画館では携帯電話の電源を切りましょう。』
今は暗くて見えないが、映画館の扉にもそんな注意書きがしっかりと貼ってある。
しかし、着メロはなかなか鳴り止まない……
「あれ?……もしも……あれ?……」
その携帯の持ち主『影山 信夫』は、電話に出ようとしていた。
「もしも~し……あれ?これどうやって出るんだ?」
首を傾げながら、右手のスマホの液晶ディスプレイを見つめる影山。
実は彼、今日新しくスマホに替えたばかりで、使い方がよく解らないのだ。
「あの…すいません。これってどうやって電話に出るんですか?」
隣の全く面識の無い女性『高島 啓子』に、スマホの使い方を尋ねる影山。
啓子は「出るのかよ!」と言わんばかりの迷惑そうな顔をしたが、それでも着メロ鳴りっぱなしよりはいくらかマシとスマホの使い方を影山に教えた。
「その『通話』の所をフリックして……」
「フリ?……フリ何です?」
「ああ~~もうっ!そこを指で横になぞって!」
「なぞって……あ~なるほど♪
こりゃどうも♪」
(こりゃどうもじゃねぇよ……)
「もしもし~♪」
「通話は外で!」
「あ、そうですね♪」
「…ったく……」
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