ショートコメディの世界
レストラン 《クイ・ダ・オーレ》
その店の前に立った具流目は、今夜のメニューをあれこれ想像しながら顔を綻ばせ、洒落たデザインの木製扉を押し店内へと入って行った。
「予約していた具流目だけれど」
「いらっしゃいませ具流目様。いつもありがとうございます」
店内で名前を告げると、笑顔の爽やかなウエイトレスが予約席まで彼を案内してくれる。
店内はそれほど混雑している訳でも無く、かといって閑古鳥が鳴いているような閑散とした雰囲気でも無い。程よい落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
具流目がこのレストラン《クイ・ダ・オーレ》に初めて訪れたのは2ヶ月程前の事だ。
それ以来、彼は毎週のようにこの店に通っている。
彼がこの店を気に入っている理由は、なんと言っても素材へのこだわり……全国津々浦々の厳選された良質な食材を惜し気も無く使用し、それでいて値段はそれほど高価でも無い。
利益最重視のあの偽装騒動のレストランとは大違い、具流目のようなサラリーマンにはこの上無い好都合な良心的レストランであった。
やがて、席についた具流目にウエイトレスがメニューを運んで来た。
「お水とおしぼり。そしてメニューでございます」
「ありがとう……おや?」
具流目は、手渡されたそのメニューの表紙の色が以前までの黒から茶色に変わっていた事に気付いた。
「メニュー変わったの?」
「ええ、今月からメニューのデザインを変更いたしました」
「へぇ~、なにか新メニューも入っているのかな?……前のもいいけどこの色も高級感があっていいよね」
「ありがとうございます。では御注文がお決まりになりましたら、またお伺い致します」
そう言ってウエイトレスが立ち去ると、具流目はおもむろに新しいメニューを開いた。
……のだが…………………
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