ショートコメディの世界





「なんだありぁぁ~~?
この場面であれなんて、マジありえない!」


言い終わって、ふと我に返り、慌てて口を塞ぐ日本の首相。


今の台詞は、開催国ロシアの大統領を前にして絶対に口にしてはならない台詞だった。


しかも、あの首相独特の声が裏返ったような甲高い声色は、余計に人の心を逆なでする。


ちらりと隣を窺うと、思いきり握りしめた拳をプルプルと震わせ、奥歯を噛み締めるロシア大統領の姿があった。


「君、まさかあれ、メイド・イン・ジャパンの掲示板じゃないよね?」


その場をごまかすように、日本の首相は大統領の反対側にいた、日本からの同行者に話を振った。


「いやぁ~、違うでしょう。日本の製品だったら、あんなマヌケなトラブルは起こしませんよ~♪」


それも、絶対に口にしてはならない台詞である。


「北方領土は絶対還さない!」


「じぇじぇじぇ~~~っ!」


のんきに流行語大賞の言葉なんて使っている場合では無い。
これでは、何の為にわざわざソチにまで来たのか分からない。


「そんな殺生なああぁぁ~~!
北方領土とあれは全然関係無いでしょう!」


「うるさい!私は今、最高に気分が悪いんだっ!」



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




ちょうど同じ頃、自宅のテレビでこの開会式をある男が観ていた。


その部屋の隅のハンガーに掛けてある作業服の胸ポケットには、ロシアでは最大のシェアを誇るある電飾機器メーカーの名前がプリントされている。


開会式のトラブル直後にテレビに映し出されたロシアの大統領の不機嫌そうな表情を観た後、男は手に持っていたグラスのウォッカを一気に飲み干し、満足そうに口角を吊り上げて呟いた。


「だから自爆テロなんかやめて、最初からこれにしろって言ったんだよな……」




END


*この物語は完全なるフィクションである



.

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