ショートコメディの世界




僕の正面の席で、彼女はいつもケータイを見ている。


そして僕は、そんな彼女を見つめている。


時々、彼女がケータイから目を離して正面を見ると、僕と目が合う瞬間がある。


そんな時、彼女は少し恥ずかしそうに瞳を伏せるのだが、その仕草がまた可愛い。


いつまでだって見つめていたい。


受験勉強に明け暮れる今の僕にとって、この朝の電車の三駅の区間だけが憩いの時間だと言っても過言では無いだろう。


これは最近分かった事だが、彼女の名前は『あい』さんと言うらしい。


『あい』なのか『愛』なのか、それとも『藍』なのかは分からないが、いつだったか彼女の友達らしいコが一緒に乗り合わせた時に、彼女の事をそう呼んでいたのだ。


もっと彼女の事をよく知りたい……


好きな映画は何?……
好きな小説は?……
好きな音楽は何だろう?……
休みの日には何をしているの?……
彼氏はいるの?………


彼女と話がしたい。


けれど、話しかける勇気なんて僕には無い……



.
< 7 / 37 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop