スーツを着た悪魔【完結】
楽しげに笑うまゆ……まずメイクからして違う。
いつもはナチュラルメイクなのに、今日はしっかりとアイラインを入れ、その黒い瞳をなお印象的に映す。
上等な水蜜桃に似た肌。そしてアプリコットのような瑞々しい唇で彼女が話すたび、鎖骨の上を這う、糸のように細いゴールドのネックレスがきらきらと輝いた。
「兄さん?」
未散に声を掛けられて、その一瞬、まゆに見惚れていた自分に気が付いた。
そんなバカなことがあるかと思いたかったが、それ以上考えるのは止めることにした。
今日は久しぶりに妹との食事なんだから……それを楽しめばいい。
「――行こうか」
いつものように未散に向かって腕を差し伸べると
「なにしてるのよ、兄さん。私にじゃなくてまゆさんにでしょ」
未散があきれたように、その腕を押し返す。
「もーっ、大丈夫なの? ね、まゆさん。兄さん、普段ちゃんとエスコートしてる?」
未散がまゆを振り返ると、彼女は困ったようにうつむいてしまった。