スーツを着た悪魔【完結】
通されたスペースは個室で、深青のごく自然なエスコートにまゆも緊張がほぐれ、和やかに会食が始まった。
主に未散が話題を提供し、深青がそれに応え、まゆが笑う。
たとえかりそめの関係だとわかっていても、まゆにとってはとても楽しい時間だった。
「未散は小さい時からお転婆で、本当に生傷だらけで手がつけられなかったよな」
「あら、兄さんだってそうでしょ?」
デザートのオペラを口に運びながら、未散はニッコリと微笑む。
「ね、まゆさん。兄さんはね、うちは――そう、シャンテっていうシューズメーカーなんだけど、兄はシューズメーカーの息子のくせして、子供のころは長靴しか履いてなかったの。晴れていてもよ?」
「え? どうして?」
長靴?
隣に座っている、貴公子然とした様子でコーヒーを飲んでいる深青、思わずマジマジと見つめてしまうまゆ。
彼と長靴がどうしても結びつかない。
「長靴ならすぐに履いてお外に遊びに行けるでしょう、だから」
「ああ……なるほど」
子供には紐靴は難しい。その点長靴なら足を入れてすぐに外に出られる。そういうことか。