スーツを着た悪魔【完結】
それから大きなテレビにはやりの歌が流れ始め、「キャー」という歓声とともに、女の子が歌い始める。
可愛らしい振り付けと可愛い歌声。
それを見てはしゃぐ男の子たち。
なんだか異次元みたい。
昔からまともに遊んだことがないまゆは、ただ圧倒されながらの手拍子が精いっぱいだ。
「ね、まゆちゃんは歌わないの?」
次はカラオケだよ、と言ってくれたスーツの男の子(おまけに電話番号も聞かれた)が、まゆの隣に腰を下ろす。
一瞬スーツの袖口がまゆの肩に触れて、思わずソファーを座りなおしてしまった。
「――私は、その、全然歌を知らなくて」
「へぇ……全然?」
「全然……」
「ああ、もしかしてお嬢様?」
「まさか……! 学生時代からずーっとアルバイトしてて、こういう風にみんなと遊ぶ暇がなかったの」
「アルバイト……へぇ……意外」
「そう?」
奨学金で高校へ進学し、短大を卒業したまゆにとって、生活のためのアルバイトは必須だった。