スーツを着た悪魔【完結】
「何もかも水に流せとは言わない。ただ今日くらい、デートを楽しんでもいいんじゃないかと思う」
私たちは恋人じゃない。
これはデートごっこ。
だけど――そうね。どうせ同じ時間を過ごすのなら、楽しいほうがいい。
「――私も、楽しいほうが好き」
まゆがうなずくと同時に、ホッとしたように深青が笑った。
その笑顔は美しく、あでやかで……本当に花が咲いたかのようだった。
吸い込まれるように見惚れて――
「よし、じゃあ行くか。まず絶叫系から攻めるぞ!」
「えっ、いや、ちょっと待ってください、わたしそんな――」
張り切る深青に引きずられるように手を引かれるまゆは、しっかりと繋いだ手の熱さを意識せずにはいられない。
そして先を歩く深青の広い背中に、長靴を履いて飛び出す少年が重なって、まぶしくて仕方なかった。