スーツを着た悪魔【完結】
「――おい」
深青の肩にもたれ、目を閉じたまゆ。
最初は甘えてるのかと勘違いしそうになった深青だったが、すぐに穏やかな寝息が聞こえてきて、あ然とした。
26年生きてきて、こんな形で女に寝られたのは初体験だった。
ここで寝るか普通……。
苦笑しつつ、まゆがかろうじて指先でつまんでいたベーグルを口の中に押し込み、仕方なくまゆの上半身を抱きかかえ、起こさないように膝に乗せた。
それからカットソーを脱ぎまゆの肩に乗せ、両手を体の後ろについて、ぼんやりと青空を見上げた。
実家以外でこんな風にぼーっとしたの、いつぶりだっけか……。
ないな。
まず、ない。
常に競争社会をトップで走り抜けることを是としていた深青に、家族以外の誰かと過ごす、この穏やかな時間はとても新鮮だった。
遠くからサッカーボールが転がってきて、それを座ったまま投げ返したり
手を繋いだ老夫婦に「あらあら、昔の私たちみたいね」と言われたり
風で変わる雲の形を眺めていると、意外に楽しかった。