スーツを着た悪魔【完結】
時が穏やかに流れていく。
膝で眠るまゆの重み……。
昼間のデートも悪くないかもしれないな……。
やがてぼんやりすることに飽きた深青は、いっこうに目を覚ます気配のない、膝の上のまゆをじいっと食い入るように見つめていたのだが――
眺めているうちに、言葉に出来ない、けれどどうにかして発露せずにはいられない、じれったい何かが。自分の中で芽生えたような気がした。
「まゆ」
ためしに彼女の名前を呼ぶ。
ふと、その瞬間。長いまつ毛がゆらゆら揺れて、ゆっくりと彼女が目覚める。
長い眠りから目覚める王女のように。春が芽吹くその瞬間のように。
焦点の合わない無防備なまゆを美しいと思いながら、深青はささやいた。
「――まゆ」
「あ、れ……?」
あおむけの彼女の顎の下に指先を這わせ、自分のほうを向かせる。
「キスしていい?」
「え……?」
言葉の意味がわからないのか、その瞳はまだ完全に覚醒していない。
「したい」