スーツを着た悪魔【完結】

ガツンといい音がして「いってっ!」と深青が悲鳴を上げる。

深青からすると、せっかくいい気分でキスをしたというのに、なぜゲンコツされてしまったのか、意味が分からない。



「いってーな、お前、なにすんだ――!」



抗議の声をあげかけた深青だったが

「ううっ……」

「あ」

両手で顔を覆い、本気で泣き出したまゆに、一瞬で何も言えなくなった。



「あーお兄ちゃんカノジョ泣かしてるー!」

「いーけないんだーいけないんだー!」



サッカーボールを投げ返した小学生たちからはやし立てられ、

「強引なのも時と場合によりますよねえ、おじいさん」

「そうだねぇ……これも若さゆえの暴走ってやつかのう……」

と、老夫婦に笑われる深青。



うるさいあっち行け!

つーか、なんなんだよ、なんで泣くんだよ。

逃げないってそういうことだろ?

違うのかよ。あーもう、なんでだよ!



慌てて両手で顔を覆って泣くまゆの前にひざまづき、顔を覗き込む。



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