スーツを着た悪魔【完結】
「グスッ……」
ハンカチで涙を拭いたまゆは、深青を視界に入れないように窓の外に目を向けた。
カタン、カタンと音を立てて登っていく観覧車の中はとても静かで、意識さえしなければ深青だって追い出せそうだった。
が、深青を視界に入れないからといって、彼がそこからいなくなるわけでもない。そして柔らかい花の香りはどうやったってまゆに彼の存在を意識させてしまう。
「なぁ」
なによ。
「こっち向けよ」
いやだ。向いたら最後、また……私……!
「わかった」
「え……?」
何がわかったの?
振り返った瞬間、立ち上がった深青がひょいっとまゆの隣に腰を下ろす。
「ちょっ……」
元々狭い座席だ。体の大きな深青と二人だと窮屈で肩が押され、ぎゅうぎゅうと密着してしまう。
押し返そうとすると、深青は軽くみじろぎし、まゆの肩を抱いて自分の腕の中に引き寄せる。
そして上半身をもたれるように抱かれてしまうと、まゆの体はまるであつらえたようにすっぽりと収まってしまった。