スーツを着た悪魔【完結】
いつもの短気な深青ならここで「なんとか言え」と叫ぶか「じゃあもういい」と面倒くさくなって捨てるかのどちらかだった。
深青はそもそも人に試されるのが我慢ならならない男で、たとえば「恋愛の駆け引き」だとか、計算されて気を引かれるのを死ぬほど嫌っていた。
彼女もそうなのだろうか。
そう思いたくないのは、俺の一方的な気持ちなんだろうか。
じっとうつむき、膝の上で両手を祈るように握るまゆの様子を観察する深青。
夢から覚めたまゆはうっとりと俺を見上げ、キスをした瞬間も、震えながらも深青のキスに応えた。
キスの感触は俺を拒んではいなかった。
だから――こんな気分の良くなるキスをしたのはいつぶりだっただろうと嬉しくなったというのに。
お互いの気持ちが向き合ったのだと、そう思ったのに。
「――私……」
考え込んでいると、まゆが絞り出すように声を出した。
「まゆ?」
体は細かく震えている。
「――あの……」
まゆはかすかに身じろぎして、肩越しに深青を振り返った。