スーツを着た悪魔【完結】
こんな風に、どこか不思議そうに自分を見つめる深青を見ると、自分との違いを思い知らされる気がする。
未散さん……あの人を見れば、深青がどんな家庭環境に育っているかわかる。最初の予想とは違う。きっとあたたかい家庭なんだろう。
そしてのびのびと愛されて育てられたからこそ、深青には卑屈なところがいっさいなく、自分に自信があるからこそ、こうやって思うように行動するんだろう。
そんな彼に自分の気持ちを説明したところで、きっと笑われるに違いなかった。
人を好きになることがどんなに恐ろしいことか……
あなたにとっては他愛もない戯れのキスでも、私にとっては違うのだと……。
それに私は――恋なんて出来ないから。
自分の中に芽生えつつあるこの気持ちも、早いうちに摘んでおかなければならない。
「ごめん、ちょっとビックリしただけ……」
「え……?」
「確かにその、聞かれたけど、驚いて、それで咄嗟に……ゲンコツしてごめんなさい」
「じゃあ」
少し嬉しそうに深青が自分を見つめたのに気づいて、まゆは首を横に振った。