スーツを着た悪魔【完結】
気に入らない。
いや、気に入らないと言うよりも、むしろ気になって仕方ないのかもしれない。
あのキスをまゆが「冗談」で笑って済ませることに対して、拭いきれない違和感を覚えた。
例えばあの黒い瞳を怒りで燃やし、自分を非難するのなら理解できる。
まゆはそういう女だ。付き合いは短いがそれはわかる。
だが今はどうだ。
あのあと、観覧車から降りデートを再開しても、一見楽しげにすごしているように見せるだけで、俺から目を逸らしたまま一度も視界に入れることすらしない。
ただひたすら息苦しそうだった。
いったいなんなんだよ……。
「じゃあ……おやすみなさい」
「――おやすみ」
まゆは助手席から車を降り、もう一度運転席の深青に向かって深々と頭を下げる。
そして何かを吹っ切ったかのように勢いよく駆け出した。
そんな彼女の背中を、深青はハンドルにもたれたまま見つめていた――。