スーツを着た悪魔【完結】
忘れなきゃ。
月曜日にはまた今までどおりアルバイトと社長に戻って、そして就職活動をして、新しい仕事を一刻も探さなきゃ……。
コンビニからだいぶ距離をとってから、駆け足だったまゆは歩みを緩める。
カツカツ、と響く自分の足音を聞きながら、まっすぐにアパートへの道を歩く。
私に恋なんか必要ない……したくない。
人を好きになんかなりたくない。
そう思うと同時に、色鮮やかに深青の姿が脳裏に甦り苦しくなる。
まゆの住む部屋は3階だった。
18のころから住む小さなアパート。まゆが唯一心を安らげる場所。
ゆっくりと階段を登りながら、鍵を取りだそうとバッグを開ける。
その瞬間、携帯がバッグの奥底で鳴りだして足を止めた。
もしかして……深青?
開くとやはり非通知だった。
嬉しいような、辛いような、複雑な気持ちで通話ボタンを押す。
「――もしもし……」
歩を進めながら応えるまゆ。
『まゆ……』
「ッ……」