スーツを着た悪魔【完結】
深青じゃない。
電話の相手が誰かわかった瞬間に、目の前が真っ白になる。息がつまった。全身から血の気が引いて、部屋のドアの前で立ち尽くす。
「な、んで……」
『先日帰国したんだ。メミがまた羽振りがよくなったみたいに見えてね……あいつ、まゆとはもう連絡は取ってないなんてバレバレの嘘つくから携帯を盗み見た』
神経質な声に、背筋がゾッとした。
まるで自分をどこかで見張っているみたいだ。いや、そうなのかもしれない。
肌がチリチリと焦げ付くような感覚を覚える。
まゆは携帯を持ったまま、無意識にバッグの中の鍵を探していた。
一刻も早く安全な家の中に隠れたかった。高校を卒業してからやっと手に入れることが出来た、自分だけの場所。
もう二度と蹂躙されたくなかった。
誰にも傷つけられたくない。一人でいたい。
「ゆうちゃん、あのね、私っ……」
『一人暮らししてるんだろ? 遊びに行ってもいいかな』
「え……」
『俺たち、イトコだろ? 仲良くしなくちゃ』
そして電話は一方的に切れた。
ツーッ、ツーッ……
無機質な音がいつまでも冷たい廊下に響いていた。
――――……