スーツを着た悪魔【完結】
「まゆ」
深青はまゆをベッドの真ん中に下ろすと、そのまままゆの顔の両方に手をついた。
そしてもう一度、キスしようと顔を近づける深青のすみれの香りを感じて――
まゆはハッと意識を取り戻した。
「だ、めっ……」
慌てて体をくるりと回転させ、起き上がりベッドの反対側に移動する。彼に背中を向けたまま、うつむいた。
「――ごめんなさい、深青……無理なの」
「無理?」
「――」
何がどう無理なのか……今のまゆに、説明する勇気はなかった。
いや、未来永劫、誰にも言うつもりはないのだ。
まゆは恋愛など必要ないと思っていたし、今だってそう思っている。
深青とこんなことになってしまったのも、想定外だった。
「――生理?」
「ちっ……違いますっ!」
何言ってるの、この人!
羞恥心と戸惑いと、そして酷く鈍感な深青に苛立ったまゆが振り返ると同時に、深青がひざをついてまゆに近づいてきていて。
そのたくましい腕でまゆを抱き寄せた。
「俺が怖い? 信じられない?」