スーツを着た悪魔【完結】

一方、まゆは深青に抱きしめられながら、胸を激しく切り裂かれるような痛みを覚えていた。


深青は勘違いしている。いくら待たれたところで、私の気持ちは変わらないのに――。

言わなきゃ。こんなことしたって無駄だって。私はあなたにふさわしくない理由があるんだって――

だからもうアルバイトを辞めて、会わないのが正解なんだって……。


脳内で、十日前にかかってきた電話の「ゆうちゃん」の声が響く。


まゆはうっすらと浮かんだ涙をまばたきで誤魔化して、深青の着ていたシャツをぎゅっと握りしめて顔をあげた。



「深青、私ね……」

「お前が可愛くてたまらない」

「っ……」



深青は低い声で優しくささやいて、まゆの頬に張り付いた髪を指で取り除いた。



「だから、無理に抱いたりしない」

「みさおっ……」

「その代わり、ずっと俺のそばにいるんだ」

「――」

「離さない……。もう決めた」



そして深青は、まゆの頬を両手で押さえて、そっと額に口づける。

大切な宝物のように――



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