スーツを着た悪魔【完結】
思う男に熱烈に口説かれて、きっぱりと跳ねつけられる女がいるだろうか……。
まゆは『駄目だ、こんなのは間違っている』という気持ちと『この腕のぬくもりの中にもう少しだけいたい』という気持ちの間で激しく揺さぶられながら、結局深青の優しい腕を振り払えず、冬眠中のリスのようにじっと身をひそめていた。
「――もう体が冷たくなってるな。なんでだよ、シャワー浴びたんじゃないのか?」
深青はまゆの手を取り、指先にそっとキスを落とす。
先端に吐息を感じて、ゾクゾクと背筋が、腰のあたりが痺れる。
頬を染めうつむく初々しいまゆを見て深青はご満悦だったが――
確かに深青の言うとおり、まゆの体は緊張したこともあって、ひんやりと冷たくなっていた。
「浴びたけど……すぐに冷たくなるの」
「ふぅん……女は冷え性っていうもんな」
「深青は……あったかいのね」
顔をあげると、深青はふっと表情を和らげる。
「触れてみろよ」
「え?」
「俺に、お前の手で触れて欲しい」