スーツを着た悪魔【完結】
もう一方の手でまゆの手のひらに指を這わせると、まゆはこっくりとうなずいて体から力を抜く。
背中と頭を手のひらで支えながらベッドに横たわらせると、まっすぐな髪がシーツの上にしっとりと広がって、美しい円を描く。
そして仕上げに、まゆの体の上にシーツをかけ、母が幼いころよくしてくれたように額にキスをすると、
「深青……」
「ん?」
「ありがとう……色々……優しくしてくれて……私、あなたが考えている百倍は嬉しいの……本当よ……お風呂も、ご飯も……こうやって撫でてくれるのも……うれしい……生まれて初めてなの……ありがとう……」
それはまゆの無垢な告白だった。
「――おやすみ、まゆ」
突然こみ上げてきた、悲しみに似た「愛おしい」という感情に戸惑いながら、深青は笑顔を作る。
「おやすみなさい……深青」
そして安心したように穏やかな寝息を立て始めた彼女を見つめていた深青は、軽く唇をかんでまゆを見下ろす。
このくらい、恋人同士ならいくらだってやるじゃないか。
まゆにはそんな経験がまるでないのか?
なぜ?
「まゆ……」
彼女の髪を撫でながら、もしかしたら自分はのっぴきならないところまで、彼女を愛してしまうかもしれないと、そんな予感を覚えていた――。