スーツを着た悪魔【完結】
自分にとって深青は家族同然。
道を踏み外しそうになっているのであれば、彼の両親の代わりに、一番近くにいる自分が正してやらねばと常日頃から考えている頼景にとって、深青がわけのわからない女に腑抜けになっている図というのは、とうてい受け入れがたい現実だった。
豪徳寺家は、日本で有数の旧家で、名家だ。
本家は日本の政治経済のいたるところにその根を張り、影響力は甚大。
その力を求め、己の娘を使ってまで豪徳寺分家筆頭の御曹司である深青に近づく人間もいる。
それを深青自身よくわかっていたはずだ。
決して女にのめり込まないと――
「仕事には一切影響はねえよ」
黙り込んだ頼景を見て、深青も思うことがあったのか、ほんの少し声色を緩めて首を横に振った。
「そうか……ならいいが」
よくない傾向だと言いたいのをグッと堪えて、うなずいた。
きっとここで反対してもこじらせるだけだろう。
まゆ――と言ったか。
どこからどう見ても普通の女だが、念には念を入れなければ。自分で調べるしかない。