スーツを着た悪魔【完結】
食事は深青の提案で、近場の家庭的なイタリアンレストランでとることになった。
一見和やかに場は進み、深青は親友と自分の可愛い恋人を合わせたことでひどくご機嫌になっていた。
頼景のまゆに向ける笑顔が本物でないことも、まゆがその視線に居心地を悪くしていたことも、気づかなかった。
「別荘……?」
「ああ、もう何年も行ってないけど、ゆっくりするのにいい別荘がある。今度二人で行こう」
隣に座るまゆの手を膝の上で握る。
「海? それとも山のほうか?」
国内どころか、世界中にある豪徳寺家の別荘に何度も行ったことがある頼景が尋ねると、
「山のほう。温泉あるし。あ、ヨリも行くか? 誰か連れて来ればいい」
「――やめとく。あてられそうだ」
彼は肩をすくめ、ナイフとフォークを置いた。
「深青、私、山は苦手なの……」
まゆが申し訳なさそうにささやく。