スーツを着た悪魔【完結】
「ああ、虫とか?」
「ううん。そうじゃないんだけど……」
「じゃあ海にするか」
「――うん」
どこか煮え切らない態度に、頼景は一瞬目を細めたが、すぐに表情を戻しウェイターを呼び、食後のコーヒーを注文した。
「まゆ、ちゃんと食べろよ」
「食べてるよ、大丈夫。ただもうお腹いっぱいになっちゃって」
「そうか? ああ、ここのティラミスはかなりうまいんだ。持ち帰り分を作ってもらって、まゆの今晩のデザートにしよう」
そこでウェイターを呼ぼうとした深青だったが、手を止める。
胸元に手を入れ、携帯の着信を見てため息をついた。
「悪い、取引先だ。少し席を外す」
深青は椅子から立ち上がると、テーブルを離れてしまった。
「――」
「――」
深青がいなくなると二人きりになり、急に静かになる。