スーツを着た悪魔【完結】
そして彼、豪徳寺深青(ごうとくじみさお)は、私が廊下に立ち尽くしていることに気づいて――
「あ」
切れ長の美しい目を一瞬丸くして……。
硬直する私のもとに近づくと、私の頭の上に手をつき、にっこりとほほ笑む。
「今の内緒にしておいてくださいね」
内緒にしておけと言われても、いったい誰が彼の二面性を信じるだろう。
「なぁ……うんとかすんとか、言ったら?」
「――」
黙り込んだままのを見下ろし、彼は薄く笑うと――
(あれだけ悪しざまに人を罵っても相変わらず美しく、くやしいくらい優雅。人は見た目が九割と言うけれど、確かにそうだ。
彼は天使のように凛として美しく清潔で――今目の前で起こったことを私はすでに夢のように感じている)
「これ、口止め料」
乾いた私の唇に、そっとキスを落とした。
彼は今まで、いったいどれだけの女の子に口止め料を払ったのか……。
少なくとも私はこれで二回目なのだけれど、彼はまったく覚えていないらしい。