スーツを着た悪魔【完結】
小さいころから悠ちゃんの言うことは絶対だった。
彼の言葉を信じる以外にまゆの生きる道はなかった。
なぜなら彼はまゆの10歳も年上で、そしてなにより、叔父の家にあって、まゆのたった一人の「味方」だったから。
だから「引っ越せ」と――彼がそうしろと言うのなら、そうするしかない。
そう、頭では分かっているのだけれど……
「はい」とうなずけない自分がいる。
ここは私のお城だ。みすぼらしくても、私のための部屋だ。
「悠ちゃん……私……」
「――まゆ?」
顔を上げると、返事をしないまゆを怪訝そうに見つめる悠馬と目が合った。
「い、や……」
「え?」
「この部屋、気に入ってるの……だから、引っ越したくない……」
「――」
無言になる悠馬。そして緊張で体を固くするまゆ。
言ってしまった……!
未だかつて一度だって反抗したことのない悠ちゃんに、イヤだと言った!