スーツを着た悪魔【完結】
頭のよかった悠ちゃんは、大学卒業後、外資系の証券会社へと入社しアメリカ勤務になった。
そして三年前、突然帰国したと思ったら、会社のとても偉い人の娘さんと結婚して、またすぐにアメリカへと戻っていった。
周囲の人が言うには、あのまま悠ちゃんはアメリカで順調にキャリアを積み重ね、もっと偉くなるだろうって言われてたのに……。
「ヘッドハンティングされて、日本に帰ってきたんだ」
片方だけ膝を立て、その膝を抱えるように座っていた悠馬は、そのままの体勢でまゆを見つめる。
「それでどうして、離婚したの?」
「――覚えてないの? まゆ」
まゆの問いかけに、悠馬の声が一段低くなる。
「っ……」
「思い出しなさい。三年前、僕はまゆに約束したはずだ」
悠馬の切れ長の一重まぶたは、その縁の影が濃く、男性独特の色気を放つ。
「覚えているだろう。覚えていないとは言わせないよ」
頭のすぐ上で響く声にハッと顔をあげると、悠馬は小さなちゃぶ台をおしのけ、まゆの腕をつかみ顔を近づけていた。
逃げられない
そしてもう一方の手は、彼女の心臓の上へとのせられる。
「まゆの傷を知っているのは僕だけだ。僕だけがまゆを許してあげられる」