スーツを着た悪魔【完結】

頭のよかった悠ちゃんは、大学卒業後、外資系の証券会社へと入社しアメリカ勤務になった。
そして三年前、突然帰国したと思ったら、会社のとても偉い人の娘さんと結婚して、またすぐにアメリカへと戻っていった。

周囲の人が言うには、あのまま悠ちゃんはアメリカで順調にキャリアを積み重ね、もっと偉くなるだろうって言われてたのに……。



「ヘッドハンティングされて、日本に帰ってきたんだ」



片方だけ膝を立て、その膝を抱えるように座っていた悠馬は、そのままの体勢でまゆを見つめる。



「それでどうして、離婚したの?」

「――覚えてないの? まゆ」



まゆの問いかけに、悠馬の声が一段低くなる。



「っ……」

「思い出しなさい。三年前、僕はまゆに約束したはずだ」



悠馬の切れ長の一重まぶたは、その縁の影が濃く、男性独特の色気を放つ。



「覚えているだろう。覚えていないとは言わせないよ」



頭のすぐ上で響く声にハッと顔をあげると、悠馬は小さなちゃぶ台をおしのけ、まゆの腕をつかみ顔を近づけていた。


逃げられない

そしてもう一方の手は、彼女の心臓の上へとのせられる。



「まゆの傷を知っているのは僕だけだ。僕だけがまゆを許してあげられる」




< 204 / 569 >

この作品をシェア

pagetop