スーツを着た悪魔【完結】
「え?」
慌てて見てみれば、たしかにストッキングが途中でよれ、ワンポイントで入っているレースの模様がねじれていた。
直そうとすると、悠馬はまゆの足元にひざまずき、彼女の足首に触れた。
「あ、ごめん、自分で――」
「いいから」
「――ありがとう」
まゆにとって、悠馬は唯一優しく接してくれる身内だったが、高校から寄宿舎のある名門高校に通っていた彼と顔を合わすのは年に数回の帰省シーズンと、試験が終わった後の休みのみ。
それでも彼が帰ってくると、叔父夫婦もメミも、悠馬にかかりっきりでまゆをまるで無視するので、冷たく当たられるよりずっとよかったし、なにより悠馬がまゆのために児童書を買ってきてくれたり、一日中側にいて、構ってもらえるのが本当に嬉しかった。
優しい悠ちゃん……
「――本当にきれいになったね」
ひざまずいた悠馬は、そのまままゆのひざ裏に手をまわす。
「悠ちゃ……」
手のひらの感覚に、ぞくりと体が震えた。