スーツを着た悪魔【完結】
「そうだよ。まゆ」
「うん……ありがとう……」
こっくりとうなずいたまゆだったが――
一方悠馬はどこかかすかな不安を……このみすぼらしい部屋から引っ越せと言った時の、まゆが見せた反抗が気になっていた。
たった3年会わないうちに、いったい何が彼女を変えた?
幼いころから10年以上、執拗にまゆを躾けてきた。
彼女をほんの少し変えたものが、時間……それだけならいいが……
それに、彼女から微かに香る花の香り。
男にしてはフローラルすぎる上品な香りだったが、気になる。
まゆには男女とも友人を作らせなかった。
他人は裏切るものだと信じ込ませてきた。
それが彼女のためにいいとか悪いとか、考えたことはない。
まゆの心にいる人間は僕一人でいい。他には誰も必要ない。
彼女の生死を決めるのは自分。ただそれだけだ。
用心しつつ、悠馬はまゆに名刺を渡した。