スーツを着た悪魔【完結】
「――あはは……」
適当に笑って誤魔化したけれど、
「約束だからね!」
と、平田は明るく言い放ち、スタスタとChanteの廊下を歩いて行く。
何度も振り返って手を振る彼を見て、明るい人だなぁ……と思いつつ。
苦笑しながら手を振り返し、まゆも目的の階でエレベーターを降りる。と、目の前のデスクに秘書らしき女性が座っている。
「Orlandoの澤田です」
「お待ちしておりました。廊下の奥の部屋にお進みください」
「ありがとうございます」
軽く頭を下げて、廊下の奥へと向かう。
今は若い女の子向けのブランドもあるけれど、元々Chanteは長い歴史がある高級シューズメーカーだ。
深青も席を置いているという重役室のこのフロアは、壁も床もすべて大理石がはってあり、美しい織の絨毯は、踏むのがもったいないと思わせられる佇まいをしていた。