スーツを着た悪魔【完結】
「――ヨリ……どういうつもりだ」
代わりに出てきたのは、地の底から響くような低い声。
ソファーから立ち上がり、テーブル越しに頼景の胸ぐらをつかみ、引き寄せる。
「俺はガキじゃない……お前のことは信用してるけど、付き合う相手をどうこう言われる筋合いはない」
「だが、豪徳寺の名前を軽視している……お前のことは、ご両親からくれぐれも頼むと言われてるんだ」
苦しそうに顔をしかめながらも、実に真っ当なことを言う頼景。
真っ当だからこそ深青は言い返せず、いら立ちが募った。
自分は千年以上続く豪徳寺家の分家筆頭の嫡男だ。
どこか退屈で、何事にも本気になれないレールの上を歩く人生ではあったが……それでも豪徳寺の名にふさわしき男であろうと生きてきたのだ。
そして頼景はいつも深青のために骨を折ってくれた。
面倒事に巻き込まれた時も、彼に助けられたことは何度もある。
自分を思ってしてくれたことは確か。そして、そもそも色々素行に問題があった自分も悪いのだ。一方的に彼を責めるわけにはいかない……。