スーツを着た悪魔【完結】
さらりと言われて、うなずかざるを得なかった。
そもそも私は社員なのだから、断れるわけがないのだけれど。
にしても、深青と出張?
一泊……?
考えれば考えるほど、混乱してくる。
自分のデスクに座っても、妙に高鳴る鼓動が落ち着かない。
いやいや、仕事だもの。
私は秘書としていくだけ。だから、ドキドキするのはおかしいこと。
深青はあれっきり何も言わないし……。
まゆは手持無沙汰に、デスクの上に置いてある付箋を、剥いだり張り付けたりしながら、ひとしきり悩んでいた。
そもそも今まで、自分はまともに他人と向き合った経験がないのだ。
友達も、彼氏も作らず、一人で毎日を過ごしてきた。
こういう時は腹を割って話し合ったほうがいいだとか、経験則からの行動がとれない。(それこそ、悠馬の思うつぼなのだが)
こういうとき、本当にどうしたらいいのか、何もわからなかった。
ただ、漠然と、それが目の前を通り過ぎるのを待つだけだった。