スーツを着た悪魔【完結】
口止め料!?
信じられない。本当に、信じられない!
愚図な自分にも腹が立つけれど、この人の傲岸不遜ぶりは相変わらずで――
「あれ、もしかして怒ってる?」
あでやかに微笑まれて、毒気を抜かれた。
相変わらず眩しい。
素敵で……手が届かない人だ。
だけどどうして彼とまた、こんな形で出会ってしまったんだろう……。
「誰にも、言いませんからっ……!」
虚しくなりながらも、勇気を振り絞ったというのに、私の声はか細く、場所がカラオケだったせいもあってか、背の高い彼に届かなかった。
「え? 聞こえないんだけど。なに?」
まさに上から目線。
私の顔をぶしつけに覗き込んでくる。
彼の場合、本物の血統の良さから来る無神経で――
だからわざとじゃないとわかってはいるのだけれど、やっぱり傷つく。
いや、そもそも大きな声を出せない私がいけないんだけど――。
「――失礼します」