スーツを着た悪魔【完結】
「――で、深青。その女性を紹介しない気か? 会わせたくて連れてきたんだろう?」
「はい。さすが当主」
深青はにっこりと笑って、まゆを見下ろした。
その瞬間、はじけるようにまゆは背筋を伸ばし、頭を下げていた。
「はじめまして、澤田まゆと申します」
「豪徳寺結だ」
彼は着物の袖の中から腕を引き抜き、そのまま白くて美しい手を差し伸べる。
まゆはぽーっとのぼせるように、豪徳寺本家の当主の手を、両手でつかんでいた。
いつもならそんな不躾な真似はけっしてしないのだが――
それはまるで花に引き寄せられる蝶のような、本能に直接呼びかける魅力で、決して抗えるものではなかったのだ。
――――……