スーツを着た悪魔【完結】
深青の手の熱に、まゆは顔をあげ、深青を見つめ返す。
「魅入られてるって……?」
「心ここにあらずだ。その様子じゃ、メシもまともに食ってないんじゃないのか?」
「えっと…」
そんなことはないと否定しようとしたまゆだったが、確かに、あの小さな庭であの人の手を握ってから、そのあと、記憶がすっぽり抜け落ちている。
すごい料理を次から次に出されたような気がするが、何を食べたか覚えていない。
そんなにぼーっとしていたんだろうか。
やだ、仕事中なのに……。
まゆは恥ずかしくなりながら「ごめんなさい」と深青に頭を下げた。
「いや。特別な人だからな。当主は……。一目見たらたいていの人間は強いショックを受けるし、話せば夢見心地になって当然だ」
「当然って……深青の親戚ってすごいのね……で、たまたまとはいえ、そんな人に、挨拶してしまったのね、私……」