スーツを着た悪魔【完結】
そしてまた、ぼうっとした様子で車窓の外の景色を眺めはじめる。
京都に向かう新幹線に乗る前から、かたくなに通していた敬語を使うのを忘れているあたり、相当なショックを受けたのだろうと深青は苦笑した。
けれど……まゆは勘違いをしている。
言えばプレッシャーになるだろうと口には出さなかったが、これは深青なりの自分への発破だったのだ。
まゆという女性を、知るべき人にきちんと知って欲しかった。
順序から言ってまず両親に会わせるべきなのだろうが、彼らは今、ニューヨークにいる。
というわけで、深青は当主にまゆを会わせるためだけに京都にやってきたのだ。
小うるさい親戚になんと思われようがどうでもいいと、半ば本気で思っている深青だが、本家の当主だけは別だ。
滅多に会える人ではないが、今日という日がチャンスだった。
どうしても自分が本気で惚れた女に会ってもらいたかった。