スーツを着た悪魔【完結】
そして当主は、ただ会わせたいと思った自分の気持ちを汲んでくれた。
それだけで十分だ。
あとは、お前の気持ちだけなんだけどな……。
ただひたすら待つというのは、案外辛いものだ。
未だかつて待ったことのない男、深青は、夢見心地のまゆの横顔を見つめながら、またため息をついた。
――――……
「――ゆ、まゆ」
「はっ、はいっ!」
何度か呼びかけられて、ハッと顔を起こすと、深青が呆れたように自分を見つめ、ため息をついていた。
見るとハイヤーは大きなビルの前で停車しており、車の後部座席のドアは、白い手袋の運転手によって開かれている。
どうやらまゆと深青が降りるのを待っている様子だ。
確かホテルにいったん戻ると言っていたような……。