スーツを着た悪魔【完結】
「あ」
さっきカラオケにいた女だ。
そうだ、ワインを飲んでニコニコしてた。
あんまりにもおいしそうに飲むから、普段上等なワインを飲んだこともないんだろうとちょっと可哀想になったんだ。
彼女はしっかりとバッグを持ち、いかにも帰りそうな雰囲気。
確かに鬱陶しい先輩にしつこくされてたもんな。
で、帰ろうとしてどうやら今のを見られたってわけか……。
そんなことを考えながら、細かく震えている彼女の前に、当然のように立つ深青。
すると彼女は、一層身を固くして、おびえたように深青を見上げてくる。
背は低い。清楚といえば清楚。というか全体的に小づくりだ。化粧っ毛のないその顔は、むしろ子供っぽさが目立つ。
まっすぐな髪と澄んだ黒い瞳が綺麗だと思った。
が、まったくもって、深青のタイプではない。
(彼はとにかくゴージャスでなおかつ上品で、とにかく美しい女が好きだ。世の男が「お?」っと振り返るような女しか基本相手にしない)