スーツを着た悪魔【完結】
一応、口止めしておくか。どこから俺がこういう男だってばれるかわからない。世間の知る『豪徳寺深青』は品行方正な王子だから……。
彼女を壁に追い込むように手をついた。
「今の内緒にしておいてくださいね」
「――」
腕の中に閉じ込めても、無反応な彼女。口がきけないのか疑いたくなる。
あ。なんだかこいつ、白ウサギみたいだな。
さっきも先輩に狙われてたし悪いヤツに頭からパクッと食われそう。
怯える彼女の真っ黒な瞳は、そういう目で見れば愛らしいとも言えなくもない。
そういえば幼かった頃、妹のベッドにこういうウサギのぬいぐるみがいたっけな……と、懐かしくなった。
「なぁ……うんとかすんとか、言ったら?」
「――」
昔を思い出し、思わず唇に微笑みを浮かべる深青を見て、一瞬彼女は不思議そうに目をぱちぱちさせる。