スーツを着た悪魔【完結】
『――どうして?』
追及の手を緩めない悠馬。
「どうしてって……」
悪いことをしているわけじゃない。
けれどとても気まずい。言葉が喉の途中で突っかかってすらすらと出てこない。
もともと口が回るタイプでもないのだ。怒られるようなことをしたつもりがなかったから、余計言い訳が出てこない。
『連絡もなしに家を空けて……。僕がまゆのこと心配するって思わないの?』
口調は相変わらず柔らかいが、悠馬を不機嫌にしてしまったのは間違いないようだ。
実際、悠馬に心配されていることなど考えもしなかったのだが(たかが一泊。しかも京都だ。怖いことなど何一つないはずだ)、それを言えばますます悠馬を怒らせるだけだろう。
「ごめんなさい、悠ちゃん……」
まゆはベッドの上で、小さくなりつつも、謝ることしか出来なかった。