スーツを着た悪魔【完結】
正直こんなところでぐずぐずしている暇はない。
ペコッと頭を下げ、そのまま彼の横を通り抜けて出て行こうとしたその瞬間
「いや、ちょっと待って、お前――」
腕を掴まれてしまった。
けれど明らかな体格差のせいか、私は持っていた荷物をそのまま廊下にぶちまけてしまって――
「あっ……!」
「あ、悪い」
とっさに膝を折る豪徳寺深青。
荷物をぶちまけてしまったことよりも、しゃがみ込もうとした彼の姿にヒヤッとした。
だって、豪徳寺深青をひざまづかせたりなんかしたら、皆に何を言われるかわかったもんじゃない。彼がカラオケを出て行ってから戻ってこないこと、気づかない女の子がいないはずないんだから。
「いいですからっ……! 触らないでください!」
「――」
だから少しキツイ言い方になってしまった。
豪徳寺深青は私の制止に、なんだか気を削がれたように唇を結び、背筋をまっすぐと伸ばし、壁にもたれるように立つ。