スーツを着た悪魔【完結】
あ、でもリストラされたら暇になるんだっけ……。
会社都合だから、失業保険はすぐ貰えるはず……。
だったら家具の配置は、暇になってから考えればいいか。そもそもそんなに物はないのだから。
「はぁ……」
雑巾を放り出し、部屋の真ん中で大の字に寝ころんだ。
目を閉じると、またあの男の顔が頭をよぎる。
唇の表面にふれた、彼の唇の感触を思い出してしまう。
う……やだ!
消えろ、豪徳寺深青!
目をギュッと閉じたまま、両手を宙でぐるぐると動かしていると――
小さなテーブルの上に置いてあった携帯が鳴った。
あの着メロは……
ギクッと体を起こすまゆ。
出たくない、と本心から思うけれど、出ないわけにもいかない。
仕方なくテーブルの上に手を伸ばし、大きく深呼吸してから通話ボタンを押した。