スーツを着た悪魔【完結】

「シャワー浴びるね。深青はもう寝てて」



変じゃないよ。

おかしなことじゃない。


悠ちゃんは私のことをちゃんとわかってくれてるんだもん。

今まで何度も勘違いしかけて、傷ついたこと――

知っているから、心配して言ってくれてるんだ。


だけど今度は大丈夫。

深青ならきっと……私……。


そう、何度も言い聞かせるのに

悠馬の声が頭の中で響いている。



『勘違いしてはいけないよ』



途端に、悠馬とは別の声が、頭の中で叫び始める。

その声はとても大きいのにうまく聞き取れない。

大人たちの叫び声と悲鳴。



咄嗟にコックをひねり、熱いお湯を浴びる。


肩のあたりを打つお湯のひりつく熱さに、声が遠のく。


思い出したくないことは思い出さなくていい。

大丈夫、大丈夫。何も怖くない。

今の私には深青がいてくれるから……。




< 429 / 569 >

この作品をシェア

pagetop