スーツを着た悪魔【完結】
好きな人が出来ました。
たったそれだけのことに、何を気負っているのだと人は笑うだろうか。
けれどまゆにはとても勇気のいることだった。
昔から、悠馬の期待を裏切るのが怖かった。
他人から愛される価値はないのはわかっていたし、それでもよかったけれど、悠馬の望む「澤田まゆ」から少しでも外れたら、もう自分を「肯定」してくれる人はいなくなるから。
そうしたらもう生きていけないから――
彼の機嫌を取るように、言葉や態度に気を付けてきたのだ。
だけど今は違う。
深青がいる。私を好きだと言ってくれる人がいる。
強く、誇らしい気持ちで胸がいっぱいだった。
彼の気持ちに少しでも応えたい。
だからこそ自分の口でちゃんと言わなくちゃって思う。
悠ちゃんにわかってもらいたい……。